失った日常

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「……大東部長……」 「おはよう」 「……おはようございます、お帰りなさいませ。長い海外生活おつかれさまでした」 「ありがとう」 なんでここに来たの? ここに私がいることを知っているの? 一対一は苦手なのに、どうやってここから立ち去ったらいいのだろう。 「あの……後ほど……」 「会いたかった」 何って言ったのか、頭の中をぐるぐると言われた言葉が何度も繰り返す。 「え……?」 「やっと会えた」 部長が言う、やっと会えたというのは、誰に言っているの?私に言っているの? まさか私みたいな女に部長が言うわけがないじゃない。自惚れるなんてなんて馬鹿なの?ただ、懐かしくて言っただけだ。 「これからよろしく」 「は、はい」 どうしていいか分からず、返事だけをすると急いでその場を去った。 そのままトイレに駆け込み、息を整えつつ鏡を見る。胸の鼓動は収まらず、どうにかなりそうだ。 「落ち着いて大丈夫」 何を勘違いしているの?会いたかったとは、部下の私に会いたかったという意味で、私情を挟んでいるわけじゃない。あまりの勘違いで恥ずかしいったらない。 「私みたいな女が……」 そう、私みたいな女がなのだ。 陰気で愛想もない私。実直に仕事をすることしか能がない私。 いつからそんな勘違いをするような身分になったのか、本当に恥ずかしい。 まさか初日から面倒なことに遭遇するなんて。今日は朝からリズムが狂ってしまった。 「大丈夫かな私」 その予想は当たっていて、大東部長の出現によって、平穏な私の日常が崩れていった。
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