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恋愛って就活みたいなものだよな、とつくづく思う。
女を企業と喩えるなら、男は就活生だ。身体を鍛えるなり、ファッションの知識を叩き込むなり、ひたすら自分磨きをしてお目当ての女の元へ向かう。
それでお互いの利害が一致すれば内定し、恋が成就する。逆に少しでも女側から見て不都合があれば、スタートラインすら立てずに土俵の上から突き落とされる。恋愛なんてそんな無常なイベントだ。
本気で相手を見つけようと決心して早五年。お見合いやマッチングアプリで敗北する度に、俺は毎度の如く同じ悪態をついている。友人とも疎遠になった今、まともな相談相手は安いビールの空き缶だけだった。
学歴は悪くない。一流企業に就いている以上、金銭的な問題も抱えていない。完全無欠と言っても差し支えないはずなのに、どうして誰も俺に靡いてくれない。固く拳を握りしめ、床に叩きつける。
──貴方と付き合う人って、心身共に疲れ果てそうね。
最後に会話を交わした女から、そんなことを言われた。性格に難があると言いたいのか。それとも顔が見るに値しないのか。
そんなのあいつらの苦しい言い訳に過ぎない。結局相性なのだ。自分と利害が一致しない男など眼中にすらなく、見破った時点で簡単に切り捨てる。俺はそこに入れなかっただけ。何も悪くない。
自分の中で結論付けて、ネットの海にでも繰り出すか、とスマホを拾おうとする。と、その時だった。不意に、ピロン、と軽快な着信音が部屋の中に木霊する。
こんな時間に誰だ。どうせ会社の上司だろう。色々と憶測を立てながら手に取るが、違った。画面に映ったのは、久方振りに見る大学時代の後輩、浮谷の名前だった。
『お久しぶりです!』
『単刀直入に言うと、合コンの人員が足りなくて……』
『是非先輩に来てもらいたいんす!』
こちとら失恋したばっかだぞ。
文字を入力しながら、俺は舌打ちする。
『他に代わりはいないのか?』
相手からの返信は、秒で返ってきた。
『実は先輩に会わせたい人がいるんですよ』
『本人も是非会ってみたいって』
向こう側から会いたい──そういう女ほどロクな奴がいないことを最近思い知らされた。結局、学歴と収入に目が眩んだだけの小蠅に過ぎない。行っても時間の問題だ。頭ではそう理解しているのに、こうも期待が膨らんでしまうのは何故だろう。
『なるほど』
『日程はいつぐらい?』
気付いた時には文字を打ち終えていた。己の単純さに苛立ち酒を呷ろうとしたところで、すぐ缶が空っぽなことを思い出す。
これで最後だ。
駄目ならここで恋愛を諦めよう。
覚悟を決めたのと同時にトークルームが更新される。後輩から提示された日程と時間は、運良く自分の都合とぴったりだった。
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