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御影君の妄想
鍋で塩茹でしたじゃがいもをザルへとあげると、ホクホクとした湯気が立ちのぼり、ほんのりと甘い香りを充満させる。これを熱いうちに潰し、バターと牛乳で引き伸ばして作る滑らかなマッシュポテトは、洋食屋定番の付け合わせの中で、私が一番好きなもの。
でも潰すのは結構力のいる作業だ。大きなボウルを抱え、悪戦苦闘しながらじゃがいもをマッシャーで潰していると、御影君がスッと寄って来て作業を代わってくれた。相変わらず優しい。本当に出来た子だよなぁ。
「テスト前なのにこんなにバイトさせちゃって大丈夫かな? 親御さんに何か言われたりしてない?」
「大丈夫です。その方が色んなことがはかどるんで」
「そ・・そう、なの?」
「はい。成績が下がってバイト辞めさせられたりしたら困りますし。そういうプレッシャーがあると、日々コツコツ勉強できるんです」
私の漏らした心配に対して、御影君はきっぱりとそう言いきった。全国でも名の通る名門校で成績維持するのって大変だろうに、テスト前なのにこんなにバイトしなきゃならないなんて、やっぱり御影君のお家って家計が苦しいのかな・・?
「あ・・そう・・。お金、やっぱりそんなに必要なの?」
恐る恐る聞いた私だったが、しかし彼は意外な返答をする。
「とりたてて今は必要ないですが、将来のこともありますし。新卒の給料じゃさほども貰えないでしょうし、就職してすぐ結婚するなら、今から計画的に貯金をしていかないと」
────結婚?
御影君て・・やっぱり彼女いるのかな? 高校生のときから結婚の為に貯金するだなんて、どんな真面目? こんな良い子にそこまで真剣に想われている彼女は埼玉一の幸せ者だ。
「そっか・・御影君、やっぱりしっかり者だね。私が高校生のときは、そんな事考えてなかったなぁ」
「そうですか? 奈緒子さんは将来のことを想像したりとか、しないですか?」
「え・・う、うーん。私は・・」
したくても、相手がいないという悲しすぎる現実。てゆうか私の年の将来って・・老後の画しか浮かばないよ。そんな事言ったら引かれるよね。
「あまり、しないかなぁ・・あはは」
「そうですか。俺はついしちゃいますね。好きな人が料理してる姿とか見てると、それが家庭の画と被るというか・・」
「そっか。好きな人、よくお料理するんだね?」
いつか会えたら話が合うかもしれないな。でも御影君の彼女って事は、きっと同じ浦和高校の女の子だよね。私と違って頭良さそうだし、話についてなんかいけないか。
だけどその問いに御影君は、キャベツの千切りを量産していた私にわざと気づかせるみたいに、背の高い身を屈めて私の顔を覗きこんだ。笑顔で────。
「そう。すごく上手なんです」
ち、近い。イケメンだなっ! てゆうか、自慢か?
「そ・・そっかぁ。きっと良い奥さんになるね」
御影君は「そうですね」と言って、その後もニコニコしながら、私がキャベツをスライサーで下ろすのを隣で眺めていた。
そんなに見られると、緊張しちゃう・・見るなら彼女のを見ればいいでしょ?
ど、どういう事なんだ御影君・・?
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