第一章 支配者クロノスの栄光

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 神と神の戦いは概念同士のぶつかり合いである。天然自然の概念そのものの神がぶつかり合うということは大地には自然災害が絶えず起こるということになる。そして、今現在地上にはプロメテウスが造り給いし(ヒト)達が栄えている。 (ヒト)からすれば敬うべき神同士の諍いで自らの生活圏を脅かされるのだから冗談ではない。造物主であるプロメテウスは(ヒト)のことを考えてゼウスに講和を申し込んだ。ゼウスは「ティターン側から戦争を仕掛けてきたのだから、クロノスの判断に委ねなさい。対話なら応じるから」と、対話のバトンをプロメテウスに託した。クロノスに届けられた対話のバトンはあっさりと投げ捨てられた。地上の主権の返還と、オリュンポス神族全員が自分の下につくことを戦争の終了条件としていたクロノスに講和を受け入れる気は全く無かった。 ゼウスも仕方なく戦争継続を決断するのであった。  プロメテウスは(ヒト)の件で恩義のあったゼウスにつこうとしたのだが、兄であるアトラスに対する義理から苦渋の思いでティターン神族側で戦いを続けるのであった。  泥仕合とも言える自然災害が引き起こされる極めて迷惑な神々の諍いは十年もの長き間継続された。神からすれば瞬きにも満たない短い時ではあるが、(ヒト)からすれば人生の十分の一、いや、八分の一、この神話の時代の人類からすればもっと短いかもしれない。短い人生の貴重な十年を神々の都合で災害に怯えて暮らさざるを得ないのは不憫である。 プロメテウスは自分が造りし(ヒト)を自分の親兄弟や他の神々よりも愛していたために、心からの申し訳無さを感じているのであった。  ティターン神族の中に「勝利」そのものの概念であるニケと言う女神がいる。彼女がついた方は絶対の勝利が約束されるのだ。 その女神は早々にティターン神族からオリュンポス神族のアテナについたためにオリュンポス側の勝利は約束されていた、だが、その勝利がいつになるかは決まっていない…… 十年後かもしれないし、百年後かもしれないし、千年後かもしれない。
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