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ある日、ガイアは自らの息子達を呼びつけた。娘達にはこんな荒事はさせたくないと、息子達のみを呼んだのである。息子達は皆、ガイアの周りを囲むように座っていた。
「集まったか、息子達よ」
「いきなり、我々を呼んでどう言うつもりですか? 母上様」と、長男オケアノス。
「お前達、お前達の他に弟がいるのは知っているかい?」
「はい、姿形は我々と違えど、可愛い弟達です。タルタロスの奥に閉じ込められ、我が身を裂かれるかのように辛いです」
「そうかいそうかい、母はお前たちが優しい子に育ってくれて嬉しいよ。許せないねぇ! 弟を蔑ろにするお前たちの父親ウラノスは許せないねぇ!」と、言いながらガイアはアダマスの鎌をどこからともなく取り出した。
「母上、これは」
「これはアダマスの鎌、我々神の体であろうと切り裂ける絶対的で無慈悲なる力。これでウラノスを切り裂きなさい」
場がざわめいた。いくら悪逆非道の子棄てを行う腐れ外道であろうと、父は父。幼き時には抱かれた逞しい腕の頼もしさ、優しくも厳しい眼差し、纏う煌めく天空の外套の向こう側に見える大きな父の背中。六人の兄弟神は皆、父ウラノスを畏れながらも大好きだったのである。父であり、兄である者に誰が刃を向けようものか。だが、目の前にいる母ガイアはそれに向かって刃を向けよと言う。誰もが母ガイアの持つアダマスの鎌を手に取ろうとは考えない。
「どうした? 勇気あるものはおらんのか? 今、この地は父であるウラノスが支配者である! 父、ウラノスを倒した者はこの地の支配者にすることを約束しよう! 神は言ったことは取り消さぬ!」
神の約束だが、神は一度言ったことは取り消し不可である。神の約束はオケアノスの娘が生まれることでより面倒になり、絶対的なものになるのだが、それはまた別の話。
一人の男がスッと立ち上がり、母ガイアの手に握られていたアダマスの鎌を手にとった。
「クロノス、お前がやってくれるのかい?」
「はい、可愛い弟たちがタルタロスなどと言う暗闇に閉じ込められているのは見ておれません! 父上…… いえ、ウラノスを切り、この地の支配者となります!」と、クロノスは野心に満ちた眼差しを持ちながら叫んだ。しかし、母ガイアはその野心を見抜くことは出来なかった。
「よく言うてくれた!」
ここで「弟を助ける」と神の約束を交わさなかったことを母ガイアは後に激しく後悔することになる……
その後悔は孫の代でやっと払われることになるとはガイアはまだ知らない……
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