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その天女は、月から降りてきた。
月姫
僕が目を合わせると、白く長い睫毛が開き、二つの月は笑った。
僕はその月の眼に目が離せなくなる。
今日は特別大きな月だ。
彼女は、月光に照らされて、ゆっくりと降りてきた。
まるで花弁が降り注ぐ様だった。
僕は、黒い世界を照らす淡い光を浴びていた。
天女は薄い羽衣の中に鮮やかな十二単を着ていた。
そう、きっと彼女は姫君だ。
艶やかで長い銀髪は重力に逆らいさらりと流れる。
頬から指先まで、雪の様に真っ白で。
額に嵌められた冠は白金で出来ていた。
僕は彼女に手を伸ばした。
彼女はその手を取ってくれた。
貴方を迎えに来ました。
彼女はそう言って、僕の手を引っ張った。
ふわりと、足先が浮いた。
月姫の無重力が僕に憑る。
僕は月へと招かれた。
大きな月の中で、兎が杵を突いている。
その朱い月の月光は、血飛沫の色をしていた。
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