月の下のステージ

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嵐のようだ 突然やって来て、とんでもない話を一気に放って、さっさと去って行ったのだ その日仕事を終え家に帰り、彼女のSNSを見てみる 絵だけではなく、文章が添えてある どんなイメージの絵なのかというものが多いが、女子が好きそうなデザートの絵には、車椅子でも入りやすいカフェの情報が載っていたり、小さな女の子が寝ている可愛いらしい絵には、体調が悪い時は頑張らなくていいんだよ、といったアドバイスのようなものもある 実際、絵自体も綺麗で人気があるが、そういった文章から見える人間性も相まって、どんどん人気が出てきたらしい 流石だ 俺だったら一生引き込もり生活決定だった 自分の辛い経験を活かして前向きに生きれるなんて、限られた人だけだろう 俺がたまたま、ほんの少し関わることになった人は、なんだか、とんでもなくパワフルな人だった けれども、だからと言って、俺の可も不可もない人生が変わるわけではない 凄いなとは思うけど、そんなパワー俺にはない ただ、今回の取材の記事になるものを読んで、これじゃ全然彼女の本当の魅力が伝わらないと思った だから、生意気にも幾つかの案を提示させてもらった こんな俺にあんなに感謝出来る人なんだ 夢を失う気持ちも、病気になる辛さも、色んな事を知ってて、あんな風に笑える人なんだ どうやったら伝わるだろう? 何日も真剣に考えて、何十回と先輩にダメ出しされて、そして… 「わかったわかった。お前、好きな子にいいとこ見せたくて突然やる気出したのかと思ってたけど、お前の本気な気持ちは充分わかった。これとこれとこれ、使わせてもらって記事を書き直そう」 そう言われた 達成感、と言うのだろうか? 人生でこんなに何かに一生懸命になったことはない 毎日は同じ事の繰り返しで でも、その中で何を思うか、どう行動するかは俺次第で、その毎日は少し変わるのだ 彼女のように突っ走れるとは思わない けれども、こんな俺でも何かに一生懸命になれるのだ もしかすると、この先もそういうものに出会えるかもしれない そうしたら少しは近づけるだろうか? あの日見たあの人に だって 月の光の中で踊る彼女は 超絶綺麗だったから
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