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可も不可もない学生生活を終えた俺は社会人となった
仕事を始めた頃は、そんな生活とは真逆の世界に入ってしまったと思ったが、1つの仕事を覚える度に、また同じような毎日の繰り返しが続いていくのだと、少しずつ予告させられているようだ
「おい!打ち合わせ行くぞ!」
「はい!」
訳もわからず先輩に付いていく
運良く大手出版社に就職出来た俺は、こうして先輩にくっ付いて、あちらこちらと毎日飛び回っている
今日は、今SNSで話題となっている絵を描いてる人物の特集の為取材に行くらしい
芸術とは無縁だが、ちらりと見えた絵は、なんだか優しそうな色使いだなと思った
セッティング等準備を済ませると、その人物が入って来た
その人は、杖をつきながらゆっくりと歩いて来た
俺とさほど変わらなそうな歳に見えるけど、怪我かなんかしたのかな?
挨拶を済ませて、早速取材に入る
爆発的に人気となった心境はどうかだの、どんな事を大切にして描いてるのかだの、まあ大体聞くことは決まっている
読む人が知りたい事も大体決まっているからだ
それにしても、この人どっかで見たことあるような…
やっぱりSNSで1回位は見てたのかな
無事取材を終え挨拶を済ませ片付け始める
すると、さっきまで取材されていた女性が、こちらへ近づいてきた
取材内容について言いたいことでもあったのかな?
先輩に声をかけに行こうとした時、女性に声をかけられてしまった
声をかけられたからには一度自分で聞くしかない
すると、女性は俺の名前を呼んだ
フルネームで
確かに挨拶の時名乗りはしたが、名字しか言ってないし、名刺は渡したが普通初対面の人をフルネームで呼ぶだろうか?
「……はい?」
頭の中にいっぱいの?を浮かべながら、とりあえず返事をする
すると女性は、嬉しそうに微笑みながら
「やっぱり!覚えてない?高校2年の時同じクラスだった…」
その名前を聞いた瞬間一気に思い出した
見覚えがあるはずだ
有名人だからではなく、高校のクラスメイトだったのだ
本名ではない名前で活動してるから、全く気付かなかった
しかし、彼女は確か高校2年の冬、右足を切断したはずだ
高校3年になってから、退院したとか、自宅療養している等噂は聞いたが、その後の事は全く知らなかった
今目の前にいる彼女は、顔も名前も同じだが、失くしたはずの右足が存在している
俺の視線に気付いたのか
「これね、義足なの。今ね、けっこう色々あるのよ。慣れるとこうやって歩ける」
そう言って笑顔で答えてくれた
義足…やっぱり切断したんだ
遠い記憶が蘇る
なんで彼女はまだこうやって笑っているのだろう?
「あ…そうなんだ…」
それ以上なんて言ったらいいのか、言葉を探していると
「ねぇ、あの日、公園に居たんでしょ?」
心臓が飛び上がったかと思った
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