月の下のステージ

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あの日…公園…それは、高校2年の2学期の終業式の日に見たことに違いない 全身から変な汗が出始める 「…いや、俺はただジョギングをしてて…」 そうだ たまたま見かけただけだ そうか!色紙だ!あんな事書いてしまったからバレたんだ! まさかこんなに時が経ってから、こんな再会するなんて思いもしなかった 今すぐこの場から逃げ出したいと思っていると 「ごめんごめん。責めてるわけじゃないの。私はずっとお礼が言いたかったの」 彼女は笑いながらそう言った その時 「おい!どうした?」 先輩が声をかけてきた まずい!新人が率先して片付けないといかないのに! すると彼女が 「すいません!実は高校の同級生で。その、少しだけ時間いただけませんか?」 そう言うと先輩は顔を輝かせて 「そうでしたか!お前そういう事は早く言えよ!どうぞどうぞ!これからもこいつをいいように使って下さい!」 そう言って去って行った これからを期待出来る人物とのコネクションが出来て嬉しいのだろう 先輩が去ると、再び彼女が話し出す 「私ね、あの時人生で1番辛かった。どんなに辛くても苦しくても、バレエって夢の為に毎日頑張ってたのに、突然強制的に夢を断たれたんだもの。死ぬかもしれないことより、一生踊れないって事の方がずっと辛かった。右足失くして、抗癌剤で髪も抜けて、なんで私だけって、いっぱい家族に当たり散らした。正直に言うと、皆から貰った色紙、ずっと見てなかったんだ。だって、大体書いてる事予想つくじゃない?頑張ってねとか、応援してるとか、待ってるよとか。私だってそういう事書くと思うし。でも、あの時は、人の優しさを優しさとして受け取れなかったから。退院して、私の為にリフォームした家に帰って、自分の部屋に引き込もっていた時に、ふと思い出して見たんだ」 あの時色紙にメッセージを書いた誰も、まさかそんなに経ってから読まれてただなんて思ってないだろな 「仲良かった友達の名前を探して読んで泣いて、あとは思った通り大体同じ事書いてた。でも、1つだけ全然違った事書いてるメッセージがあって。初めはポエム書いたのかな?とか、良くわからない手法の告白?!とか色々考えたの」 何てことだろう そんな恥ずかしい奴だと思われてたなんて 全身燃えるように熱くなったきた 「でも、そんなに話した事もなかったでしょ?どういう意味だろう?って考えて、あの日の事を思い出したの。次の日入院だったから、風邪なんか引いたら大変だったんだけど、どうしても最後に思いっきり踊りたくて、少しだけ散歩してくるって嘘ついて、あの公園で踊ってたの。」 やっぱりあれが最後の踊りだったんだ もっと称賛してくれる奴に見てもらえたら良かったのにな 「今でもよく覚えてる。右足が上手く動かないから、全然綺麗な踊りじゃなかった。でも、上手に踊ろうとか、ミスしないように踊ろうとかじゃなく、ただ、自分が踊りたいように思いっきり踊ったの。踊っててあんなに楽しい!って思ったの初めてだった。でも、あれは誰にも言っちゃいけない事だっから。私の中の大切な思い出だったの」 それは…そんな大切な思い出俺なんかが見てたなんて知ったら、さぞかしショックだったろうな… 「…ごめん。見るつもりはなかったんだ」 謝ることしか出来ずそう言うと、 「だから謝らないでって。私は嬉しかったの。私の中だけで終わってしまったと思っていたものを偶然見かけた人がいて、その人はそれを綺麗だと思ってくれた。踊りは全然上手じゃなかったし、多分見た人はバレエなんて知らない人。でも、夢中で表現したものは、ちゃんと誰かに何かが伝わるんだって気付かせてくれたの。それは私にとって凄く大きな事だったの」 感謝されてることはわかるが、言ってる意味が高度過ぎてわからず黙って聞いていると、 「バレエの出来ない人生に夢も希望も失くしていたんだけど、完璧じゃなくても強い想いがあれば伝わるものがある。だったら、バレエ以外でも、下手くそでも、初めてでも、自分が夢中になれる何か探してみようかなって思えたの。色々やってみたわ。沢山挫折した。そして沢山の人に出会って、優しさを優しさとして感じられるようになった。今こうやって義足を付けて外に出て、新しい事を始めて、知らない人と関われるようになったのは、そのきっかけは、あのメッセージのお陰なの。だから今日出会えたのは運命だと思ったわ。神様が直接感謝を伝えられるように、今日この日を用意してくれたんだって。だから、本当にありがとう!」 そう言って深々と頭を下げられた いや、それはそう捉えられる彼女が凄いだけで、俺は何もしてなんだけど… 「ちょっ、頭上げてよ。俺はただ偶然見かけて、綺麗だなと思っただけだから」 頭を上げた彼女がにっこり笑って 「うん。偶然見かけてくれて、それを色紙に残してくれてありがとう!じゃあ行くね!なんか力になれる事あったらいつでも言って!」 そう言って彼女は杖をつきながら去って行った
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