Count,12 今の君

13/21
776人が本棚に入れています
本棚に追加
/317ページ
「だから、あの場ではすぐに反応出来なかった。僕の気持ちを勝手に解釈した結木さんへの怒りも少なからずあったけど、それよりも不倫って言葉に頭が真っ白になったんだ」 榛名さんは自嘲混じりの笑みとともに、「ごめんね」と零した。 彼は悪くないと、言葉にはしなかったけれど首を横に振る事で伝える。 「でも……後でじっくり考えた時、結木さんが『相手が既婚者だと知らなかった』って言っていた事を思い出して、すぐに納得した」 「どうして?」 「結木さんって、本能で動かないタイプだろ? 何かを決める為にはとにかく熟慮して、それこそ石橋をいつまでも叩いているようなタイプだと思う」 自分では、そこまで熟慮しているつもりはないけれど……。 「きっと、理性をしっかり働かせられる人だと思うから、余程の理由がなければ不倫なんて出来そうにないし。ましてや、相手が同じ職場なんてリスクが高過ぎるから、結木さんの性格だと難しいんじゃないかと思って」 菜摘や恭子にも似たような事を言われたから、その判断は間違っていないのだろう。 「この判断、我ながら間違ってないと思うんだけど」 私自身、素直に同意できた。 無言でいる事を肯定と取ったのか、榛名さんが小さく笑った。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!