784人が本棚に入れています
本棚に追加
/317ページ
「じゃあ、もういいかな」
程なくして、ふと榛名さんがそんな事を言った。
何が〝いい〟のかわからなくて小首を傾げると、彼の瞳が悪戯に緩められる。
「キス、してもいい?」
「え?」
「ずっとしたかったんだ」
恥ずかしげもなくそんな風に言われて、こっちの方が恥ずかしくなってしまった。
「……まさかダメなんて言わないよね?」
まるで駄々をこねる子どものように拗ねた顔が、俯いた私を逃がさないと言わんばかりに覗き込む。
「言わない、けど……」
「じゃあ、いいよね?」
ニッコリと笑う榛名さんから、何とか視線だけは逃れる。
「言えないよ……」
その後で小さく呟くと、彼が眉を寄せながら楽しげに笑った。
「それ、いいって言っているようなものだよ」
クスクスと笑われて、私だけがこんなに緊張しているのかと悔しくなる。
「からかわないで……」
そんな気持ちで榛名さんを睨めば、彼が困ったように微笑んだ。
「からかってないよ。ただ、今まで以上に結木さんが可愛く見えるから、ちょっと戸惑ってるんだ」
「えっ……!?」
榛名さんの言葉に目を丸くした私の唇に、そっと唇が押し当てられた。
最初のコメントを投稿しよう!