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またウチはやってしもうた。
夏と言うもんは、ほんまウチの思考を油断させるみたいや。
暑いから大量に汗掻くんやから大丈夫大丈夫やで~~と調子ん乗って、アイスをバクバクと食べ過ぎた。
「あんま食べ過ぎんほうがええんとちゃう」と言う母の忠告を一切無視して。
暑いからと言う事を言い訳に、ウチは走ることをサボってん。
見た目はギリギリ合格ラインやとは思う、でも正直体重計には乗られへん。
めっちゃ怖いわ。あんなん今のウチにはラスボスにしか見えへんわ。
「お姉ちゃん、なに体重計の前で考えとん? 乗らへんの?」
「へっ、いや……どれくらいか気にはなってはいたんどす、せやけど鏡見たらセーフやと思って……まあ乗らんでもええかなって」
「なにがセーフ? それにどすって、大阪やでここ」
(うっ、いやなツッコミ来た~~)
「うん? いやほら、まだ見た目太ってへんやろ姉ちゃん、せやからセーフやで?」
(ここは姉ちゃんのセクシーポーズで、弟もいちころや)
(ついでにサービスでウィンクもしとこか)
「全然セーフやないんと違う。なんそれ、お姉ちゃん目蚊に刺されたん?」
(くっ……このクソ弟)
「なっ、何を言うてはるのかな~~どう見ても姉ちゃんセーフやろ?」
「はっ?」
「何か言いたそうやね~~」
そう言うと、弟がポケットから何やら物を取り出した。弟が手に持っている物が何か覗き込むと、それは携帯だった。そこには夏が始まる前のウチのスレンダーな姿がバッチリとおさめられていた。
ウチは写真に映る自分と今の自分を鏡で見比べギョッとした。
(あかん、どうしようマジでやばいんちゃう……頬っぺたの肉が増えてもうてる)
(これはマジあかんやつやん)
ハッ!?
横を見ると今度は弟が自分の膨らんだお腹の一部を摘まむと、二ヘラとイヤらしい笑みを浮かべている。
ウチは再び写真と鏡を見比べた。
(ごっつやばっ、シャツとパンツの間から肉がはみ出てるやんか)
でもウチは弟を見るとフフフと思わず余裕の笑みが零れた。そう、そういうアンタもウチと同じで、お腹が出てるやないのとドヤ顔をし返してやったのだ。
まさにブーメラン!?
(決まったわね。今回はウチの勝ちや)
!?
しかし、次に見た時には弟の御腹は綺麗に凹んでいた。さっきはワザとお腹を膨らませていたのだ。あの笑いはウチの出腹に対しての嘲笑の笑いだったのだ。
「くんのクソガキ、待ちさらせこら~~」
ウチは怒りを露わにし、弟を捕まえようと必死に走る。リビングに逃げた弟、真ん中には低くて長ぼそいテーブル、周りを囲むようにソファーが配置されており、そこを縦横無尽に上手く小学生の彼はすり抜けていく、ウチはと言うと、それらが思いっきし遮蔽物となりなかなか彼を捕まえることができない。
(夏休み前は問題なく行けたんのになんで?)
身体が大人へと近付いたせいもあるのか、それとも体重が増えたからだろうか、とにかく彼のすばしこさに身体がしんどーてついていけない。
「で~~ぶ、で~~ぶ、で~~ぶ」
「うるさいわボケ、クソチビ!? 生意気なんじゃ」
ウチは金切り声を上げて、ソファーに敷かれているクッションを弟目掛けて投げた。
「あっ……」
投げたクッションを見事キャッチした、母の顔面が。
「もぉ~~二人ともやめなさいね。それよりお夕食出来たからフフフ、はやくテーブルに座りなさい。ええね!?」
(出た〜〜標準語からの突然の関西弁)
(かなりご立腹のご様子)
(あかん、神に喧嘩を売っては絶対あかん)
ウチらは次の瞬間、従順な犬となっていた。
(そうウチらは従順な狛犬)
「「キュ~~ン」」
こうしてウチと弟の争いは嘘のように終わったのだが、ウチにとって本当の闘いは此処からだった。
「お母さん、これって……?」
「何って、あんたの好きな秋刀魚やないの」
「確かに好きやけど、それだけじゃなくってさ……」
テーブルには豪華絢爛とばかりに秋の味覚がドドーンと並べられていた。
秋刀魚の塩焼き、はさみレンコン、秋ナス、栗カボチャに栗ご飯。
食べたい、ごっつ食べたいねんけど、このままやと、ウチはホンマに丸々と太っていく未来しか見えへん。
秋が終わる頃には、ウチは肉〇ちゃんになってんやないの?
「お母さん、夏にアイスとか食べ過ぎて体重増えたやん、せやから」
「あら、ダイエット?」
「う……ん」
「そう、それは残念やわ〜〜せっかく美味しいくできたんに」
そう言うとまだ料理が有るのか、新たな料理が食卓へと運び込まれた。
牡蛎のお吸い物と焼きマツタケだ。
ゴキュッ
これじゃあ痩せられないよ〜〜。
(我慢我慢我慢)
食べ過ぎあっか~~ん
食べ過ぎあっか~~ん
空腹負けずに
やせるんやで~~
(by ウチ)
「そうそうそれと、まだ有るのよ」
(まだあるんかいっ!?)
「わあっ!? ケーキだ。やったーーママーー」
(何がママーだ弟。ウチには、わあっ!? ケーキだ殺った……やボケ)
ウチを余所に歓喜の声を上げて喜びやがってクソガキが。
「あっ、そうそう。あとね」
「お母さん、お願い……もう堪忍して」
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