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破壊の光
観客達との壮絶な言い合いのさなか、不意に背後で聞き慣れない奇妙な音が響き、銀狼は観客の悲鳴とともに振り返った。
すると信じられないことに、謎の対戦相手GODがリングロープを素手で引きちぎっていた。
「何してんだてめぇ⁉︎ やめろ‼︎」
無視したというよりは何も聞こえていない様子で、GODは両端を切り離したリングロープを鞭のようにしてリングに激しく叩きつけた。
「人同士の殺し合いがそんなに楽しいか⁉︎」
会場が割れんばかりの声量に、観客席は水を打ったように一瞬で静まりかえる。
場内の注目を一身に浴びながら、GODは再び腹の底から叫んだ。
「他人の死が楽しいなら、自分の死はもっと楽しいだろうな⁉︎」
けたたましい音とともに引きちぎられた二本目のリングロープを見て、観客達は我先にと逃げ出した。四方八方に広がる人の波で、会場内は大混乱に陥る。
「マジでどうなってやがる……?」
あまりに大きいGODの声のせいで激痛に見舞われた耳を必死で塞いでいた銀狼は、ふとGODの姿が消えていることに気がついた。
観客達を皆殺しにしそうな勢いだった「超人」が、既にリング上からいなくなっている──最悪の事態を想像して一気に血の気が引いたその時、後頸部への衝撃とともに、銀狼は意識を失った。
二階の観覧席の中央にあたるVIPルームの前までたどり着くと、雄士は銀狼をそっと廊下に横たえた。
闘技場を出た後は、サポートの元特殊部隊員に銀狼を引き渡す作戦だったが、雄士は待ち合わせ場所の選手控え室には立ち寄らなかった。そのためアイギススーツへの着替えも済んでいない。
作戦通り、シェウェイ会幹部らをVIPルームに閉じ込めたという報告は既に受けていたが、雄士が作戦を無視してこの場に直行したのは、気が急いていたからではない。
ただ彼の体は、訓練にはなかった過程を素通りし、訓練通りに任務を遂行しているにすぎない。
分厚い鋼鉄の扉を蹴破り、音響閃光弾を投げ入れる。
白煙がたちこめる室内に踏み込み、床やソファに倒れ込んだ幹部らの頭部を破壊する。
「破壊」の成功は赤いランプだ。一撃で光らせろ。
わずかな狂いもなく、正確なリズムで────。
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