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人肌の手は暖かかった。
木々の間を通ってくる月光が白い手を照らす。その手をときおりローブが隠す。聖なるものとの契約、魔除けの模様が施されたローブだ。
「キミは魔法学校の生徒?」
うん、と小さな声で返ってきた。風と足音に消されそうな。
「あのね、私、魔法をうまく扱えないんだ。だから、こうやって地べたを走るしかない」
自分のことを話すのは勇気がいることだったのだろう。心が伝わってきて、ボクの胸もきゅっと苦しくなった。
「じゃあ、ボクの背に乗って、風になって飛んでみない?」
ボクは四つんばいになると、女の子の前に飛び出た。頑張って抑えていた獣力を放出して、人間らしさは消えたオオカミらしい状態で。
「うん」
と、女の子は怖がることなく、オオカミの背に乗った。彼女が落ちないように、ボクは魔法をかけて走った。風を切り、急なくだり坂は飛ぶように進んだ。
「そういえば、どこに行くか聞いてなかった」
森を抜け、町の明かりが見えてきて、ようやくボクは気づいた。彼女はボクをどこに連れていきたかったのか。
「学校。今日は変身パーティーがあるのだけど。私、魔法でうまく変身できないから。あなたといたら楽しめるかなって思ったの。こんなにオオカミらしいオオカミに変身できる生徒はそんなにいないもん。ね、いっしょに来てくれるよね?」
「うん」
と、言うのが精一杯だった。
だって、あの学校の門を再びくぐる日が来るとは思ってなかったんだ。それに、変身パーティーに参加できる日が来るとも。
「ね、名前は? 私はネリー。パーティー行くならネリーって呼んで」
「ネリー、ボクはロネだよ。今夜は楽しもうね」
いつしか町も通り抜け、学校の時計塔が視界にはいってきた。こんなに足取り軽く学校に行ける日が来るなんて。今夜はなんて素晴らしい満月なんだろう。
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