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今日は満月。月が昇るころ、ボクはいつものように、森の奥へとはいる。月明かりが届きにくい暗い森を。ひとりで、どんどん奥へと。
満月はきらい。見たくない。
なんでこんな姿にならなければならないの?
手のひらを見れば、毛におおわれた肉球。物をつかむことはできない。オオカミの手が足が耳が尻尾が全てがきらい。ボクは普通に人間らしく暮らしたいのに。なんで、オオカミ男なの?
ボクはボクの姿を見たくなくて、森の闇に姿を消す。ボクは森だ。人間の姿のときも森で過ごすようになって、満月の日はもっと奥に行きたくなる。草木の湿った風が身体を通っていって、やっと息ができた気がする。
そうやって、自然の一部になったつもりで歩いていく。それでも人間でいたくて二足歩行で進んでいくと、ふわふわと光が舞いだす。ボクはいつもここにやって来る。光る妖精がふわふわ舞う湖。
光る湖を眺めていると、さみしくて落ちた涙は湖に落ちて溶けていく。その水を光る妖精たちは吸いに来て、飛んでいく。
妖精の光とともに、ボクの悲しみも飛んでいくような気分になる。
「どうしたの」
「え? どうして?」
いつの間にか女の子が隣にいた。ひとりで。満月の光すら届かない深い森のなかに。けど、それよりも。
「怖くないの? おおかみ男が」
「ううん」
って、その子は怖がるどころか、ボクの目を見つめてきた。
「きれいな目ね」
なんて言ってきたその子の目もきれい。妖精の光を映して、きらきらしている。緑色の瞳は若葉みたいにみずみずしい。栗色の髪の毛も艶やかだ。
女の子があまりにもまぶしくて、ボクはあとずさりした。
そしたら。湖に足がはいって、すべった。水しぶきが派手に上がり、驚いた妖精たちはほとんど飛んでいった。
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