1.お世話係

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4階に着き、一番奥の406号室のドアの前に立つと、ゆうりは「失礼しますね」と言って郡司のバッグを漁り、家の鍵を探した。 高そうなレザーのキーケースから鍵を出して鍵穴に刺す。 ガチャリと開いたドアの中をふと見た時、ゆうりは「えぇっ…」と声を漏らした。 廊下じゅうに服やら物やらなんだか分からないもので溢れ返っていたのだ。 郡司の靴を脱がせ、半ば引きずるようにリビングへと向かう。 ドアを開けると、また「うわ…」と声が漏れた。 ソファーには畳まれていない大量の洗濯物。 キッチンにはカップ麺の容器が高々と積まれている。 シンクには、食べ終えたコンビニ弁当のゴミや飲み終えたであろうお茶の空きパックが置かれていて、自炊している形跡は一切見当たらない。 テーブルの上はおろか、床にも物が散乱している。 これは完全なる汚部屋だ。 ゆうりが呆然としていると、郡司はコートを脱いでソファーにバサリと脱ぎ捨て、明るい茶色のロングヘアをかき上げた。 タートルネックをデニムにインしただけのシンプルな格好だけど、それだけでもサマになっている。 ウエストも細く、カップ麺やコンビニ弁当などで生きているとは思えないスタイルだ。 「郡司さん…大丈夫ですか?」 「んー…」 「わたし、帰りますね」 「なんで…」 「え、なんでって」 半開きの目でゆうりを見据える郡司。 今にも閉じそうなトロンとした眼差しに、何故だか胸がドクリと鳴った。
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