1.お世話係

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「帰らないで」 郡司はそう言うと、ゆうりの手を引いて隣の部屋に向かった。 そしてベッドに倒れ込み「こっち来て…」と言った。 「へっ?!」 一体、何がどうなっている????? 「少しだけでいいから…」 酔っ払い過ぎにも程がある。 どういうつもりでこんなこと言っているのだろうか。 誰かと何かを勘違いしているのだろうか。 ゆうりはしばらく黙った後、バッグを置いて、郡司の隣に寝そべった。 郡司は満足そうに微笑むと、ゆうりのジャケットを握って目を瞑り、すぐにスースーと寝息を立て始めた。 なんで、こんなこと…。 聞いたことも見たこともない、郡司のこんな姿。 酔っ払うと甘えたくなるタイプの人なのかな。 きっと覚えていないんだろうな。 思い出したくない出来事ナンバーワンになるに違いない。 「郡司さん…」 呼びかけても反応がない。 さすがに眠っただろうか。 美しすぎる寝顔をしばらく眺めた後、ゆうりは起き上がって郡司の身体に布団を掛けた。 「お邪魔しましたー…」 そーっとその場を離れて、泥棒でも入ったのかと勘違いしそうなリビングを抜け、足の踏み場のない廊下を進んで、廊下との境目がよく分からない玄関で靴を履き外に出る。 振り返りドアを見つめると、衝撃的な光景が脳裏に蘇ってきた。 まさか郡司がこんな汚部屋に住んでいるなんて…。 考えられなさすぎる。 これは現実か? なんだか疲れがどっと押し寄せてきた。 ゆうりは重い足取りで帰路についた。
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