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「帰らないで」
郡司はそう言うと、ゆうりの手を引いて隣の部屋に向かった。
そしてベッドに倒れ込み「こっち来て…」と言った。
「へっ?!」
一体、何がどうなっている?????
「少しだけでいいから…」
酔っ払い過ぎにも程がある。
どういうつもりでこんなこと言っているのだろうか。
誰かと何かを勘違いしているのだろうか。
ゆうりはしばらく黙った後、バッグを置いて、郡司の隣に寝そべった。
郡司は満足そうに微笑むと、ゆうりのジャケットを握って目を瞑り、すぐにスースーと寝息を立て始めた。
なんで、こんなこと…。
聞いたことも見たこともない、郡司のこんな姿。
酔っ払うと甘えたくなるタイプの人なのかな。
きっと覚えていないんだろうな。
思い出したくない出来事ナンバーワンになるに違いない。
「郡司さん…」
呼びかけても反応がない。
さすがに眠っただろうか。
美しすぎる寝顔をしばらく眺めた後、ゆうりは起き上がって郡司の身体に布団を掛けた。
「お邪魔しましたー…」
そーっとその場を離れて、泥棒でも入ったのかと勘違いしそうなリビングを抜け、足の踏み場のない廊下を進んで、廊下との境目がよく分からない玄関で靴を履き外に出る。
振り返りドアを見つめると、衝撃的な光景が脳裏に蘇ってきた。
まさか郡司がこんな汚部屋に住んでいるなんて…。
考えられなさすぎる。
これは現実か?
なんだか疲れがどっと押し寄せてきた。
ゆうりは重い足取りで帰路についた。
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