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「ホント、えー?!ですよ…」
「なにそれ、ひどくない?てか建て替えるからここの物件で…とか、そういうのないの?丸投げ?」
「丸投げですね。まぁ、破格で住めてたからそんなにグチグチ言うのもよくないですよね…」
ゆうりは両手で顔を覆って天を仰いだ。
他にも仕事あるのに、物件探したり引越しの準備したりする暇なんてないよ…。
どうしよう、時間がない。
あと半月後に入居したいなんて言って、良い物件が見つかるのだろうか。
いくら仮住まいだとしても、さすがにお風呂とトイレが一緒なのは嫌だし、洗濯機置き場がベランダとかも嫌だし…。
できることなら、それなりにちゃんとした所に住みたい。
そもそも、弟が大学に進学するための費用を捻出するために寮に住むことにしたのだ。
幼い頃に父が亡くなり、母が1人で朝晩働いて自分たち2人を育ててくれた。
社会に出たら、弟の学費を賄うために給料の何割かは実家に渡そう、とずっと前から決めていたのだ。
家賃が掛かるとなったら、学費を渡せなくなってしまうし、自分の生活もいっぱいいっぱいになるかもしれない。
だとしたら、"こんなところに住みたい"とか甘えた理想を言っている場合じゃないよな…。
あれこれ考えていると、八神主任が「てか里々佳ん家、一部屋余ってんだから貸してあげればいいじゃん」と言った。
「は?」
こればかりは敬語を忘れたようだ。
郡司はテレビに向けていた目を八神主任に向け『お前バカなの?』的な目で見ている。
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