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「私やるんで、いいですよ」
郡司は瓶ビールを尾崎先生の手からゆっくりと取り上げると、ゆうりのグラスにトポトポと注ぎ始めた。
「すみません…」
チラリと郡司を見ると、郡司は赤いグロスをたっぷり塗った綺麗な唇の口角をキュッと上げ「これくらいでいい?」と言った。
病棟では聞くことのできない、他所行きの声だ。
背筋がゾワゾワする。
今日の郡司は一段と綺麗だ。
前髪のないロングヘアって、美人じゃないとなかなか似合わないよな…と今考えることじゃないだろ的なことを考えてしまう。
「じゃあ乾杯」
「かんぱーい!」
同じテーブルにいた先生に一通り乾杯して挨拶した後、隣のテーブルの先生にも挨拶をしに行く。
「おー!花村ちゃーん!」
フレンドリーにそう声を掛けてくれたのは、去年入職したばかりの十河大夢先生だ。
循環器内科の先生の中ではおそらく一番優しい先生で、何か分からないことがあってもすぐに教えてくれる。
患者さんへの説明の時も丁寧で優しくて、看護師、患者さんからともに人気のあるドクターだ。
「今日も残業ー?」
「あはは、今日もって言わないでください」
「えー、だっていつも外来終わって夜病棟行くと絶対いるじゃん。夜勤なのか日勤なのかいつも分かんないよ」
「わたしだって帰れるなら帰りたいですよー」
十河先生と話していると、そこのテーブルにいた楠川師長が「うちの3年目なんですぅー」と、さっきの尾崎先生よりももっとベテラン感漂う大御所の面々にゆうりを紹介した。
「は、花村ゆうりです…」
殿様にひれ伏すように、ゆうりは頭を下げた。
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