1.お世話係

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ケトルのスイッチから沸騰を告げる音が聞こえて、ゆうりはハッとなった。 ドリップポットにお湯を移し、挽いた豆を平らにならしたところに注ぐと、もこもことこげ茶色のドームが形成され、すぐにしぼんだ。 そしてしばらくしてまたお湯を注ぐ。 それをボーッと見つめているこの瞬間が結構好きだ。 コーヒーの香りに心が安らぐ。 お気に入りの陶器でできたカップに茶色く濁った液体を注ぎ、小さすぎるローテーブルにコトリと置く。 テレビをつけてひと口コーヒーを啜ると、好きな味が身体に染み渡った。 ふとテレビの左上に表示されているデジタル表記の時計に目が行った。 6:15 15…。 待てよ、今日は5月15日。 プリセプティーである園田芽衣(そのだめい)から、課題を一度も受け取っていない。 提出期限は20日だったはず。 それまでに自分のチェックをクリアして、それからチームリーダーである郡司にOKをもらわなければいけない。 園田にはそのことも伝えたはずだ。 昨日同じ勤務だったのに何も言われていない。 もちろん郡司からも、まだなのかと催促されていない。 いや、言うはずがない。 無言で待っているのだ。 怖過ぎる。 ゆうりはスマホを操作して勤務表を確認した。 期限までの残りの日数と、自分と園田の勤務、そして郡司の勤務を照らし合わせてみる。 心臓がバクバク鳴り、変な汗が出てきそうになる。 何をどう見ても、今日郡司に提出しないと間に合わない。 絶対にダメ出しされるから、自分を経由して再提出となると、それしか道はない。 夜勤明けの郡司に残ってほしいなど口が裂けても言えない。 そもそも園田は今日課題を提出できるのだろうか。 考えていたら吐き気がしてきた。 美味しいはずのコーヒーが、一気にただの苦い液体に変わっていた。
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