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インシデントの振り返りをする時、遅くまで病棟に残っていると注意されるので、よくこの図書室で振り返りをしていた。
症例発表前も、郡司は仕事が残ってると言いながら、ゆうりが修正を終えるまで待っていてくれた。
なんだかんだ、思い出で溢れているこの図書室でまた郡司とこうして仕事しているのを、ゆうりは少し嬉しく思った。
「懐かしいですね」
「なにがー」
少しお酒が入っている郡司は、いつもより軽い口調で答えた。
「わたし、ここの図書室来るといつも郡司さんと一緒にいたこと思い出しちゃうんです」
ゆうりが言うと、郡司はフッと鼻で笑って「そういう話してくるの花村くらいだよ」と言った。
「え?」
「みんなと何気ない会話とか、しないし」
「そうですか…」
分かってはいるけど、ゆうりはあまり気にしていなさそうな雰囲気を取り繕った。
「私が他の誰かに面白おかしく話したって、みんな固まるんじゃないの」
郡司はまた鼻で笑った。
6年目とはいえ、病棟の中では師長よりも恐れられている存在の郡司。
インシデントなんて発覚した日には、目で殺され、振り返りで抹殺される。
そんな噂が定期の彼女は、病棟では笑わない冷徹な美女として一目置かれている。
それは郡司自身も分かっている、きっと。
だけど、性格的に難しいのかな。
郡司も悩んでるのかな。
みんなと話したいって思うこと、あるのかな…。
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