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「ねー、花村」
ほろ酔いの郡司の声は、控えめに言ってもすごく可愛い。
普段からわりと可愛らしい声なのだが、それよりもっと甘えたような声になる。
それによく喋るし、言葉もマイルドになる。
「家、目星つけてるとこあるの?」
「調べる暇なんて無いですよ。それ発覚したの今日のお昼ですよ?物件探しとか無理すぎます。…今度夜勤明けで行こうかな」
ゆうりは「ていうか」と、ため息をついた。
「本当はあんまり家賃にお金かけたくないんですよね。だから寮に入ってたわけで…」
「そうなんだ。家も何かとお金かかるしね」
「わたし、弟がいるんですけど…来年大学生になるんですけど。それで、弟の学費の足しにしてほしくて、給料を少し実家に振り込んでるんです」
ゆうりはそこまで言うと「あ」と口に手を当てた。
酔っ払っていると、余計なことを話してしまうからダメだ…。
「実家…大変なの?」
「あ…えっと…小さい頃にお父さん死んじゃってて。お母さんがずっと頑張って働いてくれてるんです。わたしももう社会人だし、家のこと支える立場にならないとって…あはは、どうでもいいですねー、こんな話」
「そっか…」
郡司は少し黙った後「ねぇ花村…」と、トロンとした目でゆうりを見つめた。
「うち住む?って言ったら、来る?」
「え」
あの汚部屋が一気に蘇る。
なんの冗談か分からなくて、ゆうりは「住むってあの部屋に…ですか?」と率直に言ってしまった。
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