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「片付ける…」
「…覚えてるんですか、あの日のこと」
「うっすら…」
じゃあ…一緒にベッドに横になったことも?
『帰らないで』と甘えてきたことも?
お礼の一言もなかったのは、気まずかったからなの…?
思わず口からポロッとそのことが漏れそうになり、ゆうりは慌てて言葉を飲み込んだ。
さすがに…聞けない。
気まずすぎる。
「うち来てくれてたなら分かるでしょ、あのヤバさ」
「郡司さん、お片付け苦手なんですか?」
少し間を置いてコクンと頷く郡司。
こんな完璧な人にも苦手なことってあるんだな、と思い、郡司も人間なのだなと少し安心する。
「誰にも言わないで…」
「言いませんよ」
ゆうりは「…本当に、いいんですか?」とまた聞いた。
「なんか、お昼に八神主任に言われた時、パワハラですかとか言ってたじゃないですか」
「そうだけど…」
「さっきの話で同情してくれたとか、そういうのならやめてくださいね。そういうつもりで言ったんじゃないですし。あの…世間話的な感じと思ってください」
ゆうりの言葉に、郡司は鼻から息を漏らした後、綺麗なロングヘアをかき上げた。
「…考えといて」
「はい…」
本気なのだろうか。
また明日には、覚えていないのかな。
酔っ払いの戯言として受け止めた方がいいのかもしれない。
今度の夜勤明けで、不動産屋さんに行かなきゃな、とゆうりは心の中で呟いた。
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