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3.秘密
翌々日、夜勤で14時過ぎに出勤したゆうりは「お疲れ様でーす」と挨拶しながら奥のパソコンへと向かった。
夜勤は、夜勤リーダーと、各チーム1人ずつの人員配置だ。
45床あるこの病棟を3チームで分けると、夜勤の受け持ちは1人15人。
急性期病棟ではこの15人だけでも毎日何かしらあるので、情報収集には時間がかかる。
要領の悪いゆうりは、この情報収集に時間がかかるので、16:30就業開始だとしても前残業せざるを得ない。
受け持ち患者の名前を印刷して、ひとつずつカルテを開いていく。
1日休んだだけでも3分の1は患者さんが変わっている。
何の病気かな〜と思いながら情報収集すること15分。
「お疲れ」
パキッとした声と共に郡司が現れた。
今日の夜勤リーダーは郡司だ。
いつものように低い位置でまとめた綺麗なお団子ヘア。
すらっとしている首筋と華奢な身体は、紺色のスクラブを着ているとより一層細く見える。
「お疲れ様です」
「おとといは…ありがと」
透き通るような、綺麗な声でそう言われる。
ちゃんと覚えていたことに驚いて、ゆうりは「えっ?」と言ってしまった。
「聞こえなかった?」
今度は上から舐め回すように見つめられる。
いつもの郡司だ。
ぐりんと上がった、今日も完璧なまつ毛を携えたぱっちり二重の大きなアーモンドアイ。
「き…こえました。…こちらこそ、ありがとうございました」
ゆうりのその返事を聞いて満足したのか、郡司はうっすらと微笑んで患者全員の名前をコピーした後、ひとりずつカルテを開いて情報収集を始めた。
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