3.秘密

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「広山さーん?」 ゆうりが声を掛けると、4ベッドから「あっ…!花村さんっ!」と声が聞こえた。 カーテンを開けると、今にも泣き出しそうな広山の姿があった。 ゆうりは患者さんに「こんばんは」と挨拶をすると、患者さんはヒョイッと手を上げた。 床頭台に掛かっているホワイトボードをチラリと見ると、備考欄に"難聴、失語"と書かれている。 コミュニケーションを取るのが難しいようだ。 オーバーテーブルには、小さなホワイトボードが用意されている。 「どした?」 「腹膜透析…分からなくて…」 「え」 分からないまま申し送り受けたの? そう言いそうになったが、ゆうりは言葉を飲み込んだ。 患者さんの前でそんなこと言ってはいけない。 「初めて…?」 「はい」 患者さんは、訳がわからないといった状態で、こちらを不安そうに見つめている。 『今から透析のお時間ですよね』 ゆうりがホワイトボードにそう書いて透析の機械を指差しながら笑顔を向けると、患者さんはうんうんと頷いた。 『機械、使わせていただきますね』 また、うんうんと頷く患者さん。 ゆうりは透析の袋とお腹に繋がる接続部を専用の機械に通し、腹膜透析が行われていることを確認した。 『終わったらまた来ますね』 ゆうりがホワイトボードを見せると、患者さんは片手をひょいっと上げた。
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