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「広山さーん?」
ゆうりが声を掛けると、4ベッドから「あっ…!花村さんっ!」と声が聞こえた。
カーテンを開けると、今にも泣き出しそうな広山の姿があった。
ゆうりは患者さんに「こんばんは」と挨拶をすると、患者さんはヒョイッと手を上げた。
床頭台に掛かっているホワイトボードをチラリと見ると、備考欄に"難聴、失語"と書かれている。
コミュニケーションを取るのが難しいようだ。
オーバーテーブルには、小さなホワイトボードが用意されている。
「どした?」
「腹膜透析…分からなくて…」
「え」
分からないまま申し送り受けたの?
そう言いそうになったが、ゆうりは言葉を飲み込んだ。
患者さんの前でそんなこと言ってはいけない。
「初めて…?」
「はい」
患者さんは、訳がわからないといった状態で、こちらを不安そうに見つめている。
『今から透析のお時間ですよね』
ゆうりがホワイトボードにそう書いて透析の機械を指差しながら笑顔を向けると、患者さんはうんうんと頷いた。
『機械、使わせていただきますね』
また、うんうんと頷く患者さん。
ゆうりは透析の袋とお腹に繋がる接続部を専用の機械に通し、腹膜透析が行われていることを確認した。
『終わったらまた来ますね』
ゆうりがホワイトボードを見せると、患者さんは片手をひょいっと上げた。
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