3.秘密

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パラパラ鳴るナースコールに対応していたら、気付いたら2時を過ぎていた。 「そろそろ報告もらおっか」 郡司が透き通った声で言った。 「はい。お願いします」 ゆうりがリーダー席の横に立つと「座りなよ」と近くの丸椅子を指された。 「失礼します。えっと…12号室の村林さん。今日からお薬変更になって…」 報告の途中、何人目かの患者さんのところで「これ何で点滴変わったか分かる?」と突っ込まれた。 「えっと…確かこの点滴、電解質が少し違って…」 ゆうりが、採血データと患者さんの疾患を考えて変更になったのではないかと言うと、郡司は「私もそう思う」と言った。 循環器内科の先生は、カルテに変更の理由を書かずに『ハイ、これで』みたいな軽い感じで結果だけ記録に残すタイプの先生が多い。 経過が書いてあってもドイツ語と英語が混在していてもはや解読不能だ。 気が利く先生だと採血データやレントゲン、CTなどの画像を貼り付けてくれる場合もあるが、そんなのは稀だ。 聞きたくても先生が忙しくて聞けなかったり、電話すると怒る先生もいるので、自分たちで考えてアセスメントしながら指示を受けなければならない。 先生から直接指示を受けるのはリーダーなので、リーダーは知識がなければ絶対にできない仕事だ。 例えば、先生が薬の容量を誤って出したとしても『容量がおかしい』と指示を受ける前に気付かなければならない。 そうしないと、患者さんに信じられない量の薬を投与しかねないからだ。 だから細心の注意を払って指示を受け、それを受け持ちに依頼する。 受け持ちは受け持ちでそれが正しいものなのかアセスメントして、最終投与者としての自覚を持って患者さんの元に向かわなければならない。 人の命を預かるという仕事は、実に重いものだ。
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