3.秘密

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「行きますよ。もう6月終わっちゃいますし、その場で決める勢いで行かないと」 ゆうりは違和感に気付かないフリをして言った。 「私が言ったこと、覚えてるでしょ?」 「……」 「考えてくれた?」 「本気…だったんですか」 「探すの大変でしょ」 「でも…」 「いいよ、全然。それに私、家にほぼいないし。寝に帰ってるようなもんだから」 郡司はいつもの少し冷めた声で言った。 「ひと部屋空いてるし、使って」 「え…あ、ありがとうございます…」 ゆうりは「え、ホントにいいんですか?」とまた聞いた。 「じゃあ今日死に物狂いで家探しに行くの?」 物件探しをしなくていいかもしれないなんて条件が目の前にあったら、心が揺らぐ。 上司とルームシェアとか心休まらないし、無理過ぎるけど…。 「家賃…半分払います」 「半分だと7万だけどいい?」 「えっ高い…」 寮は月2万で住めていたのだ。 それに比べたら3倍以上…。 ダメだ、無理だ。 やっぱりお風呂とトイレは一緒の築50年くらいの物件を探すしかないのかな。 ゆうりが分かりやすく落ち込んでいると、郡司は「嘘だよ」と含み笑いした。 「家賃払わなくていいよ」 「えっ?!そんなわけにはいきません…」 「その代わりなんだけど…」 郡司は今度は少し申し訳なさそうに「家事やってほしい」と言った。 「私……ホント何もできなくて…。あ、洗濯は自分でやるから」 「全然いいです。逆に住まわせてもらう立場なんで。…なんでもやります。お料理も、掃除も、全部やります」 「できるの?」 「一応、人並みには。わたし、家事って結構好きなんですよね」 郡司は目をパッと開いて「意外」と言った。
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