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郡司の家までは徒歩で15分程だ。
自転車で行った方が断然速いのだが、どこに自転車を停めればいいのか分からないので、徒歩で行くことにした。
強い日差しの下を歩いていると、そろそろ夏も間近なんだなぁと感じる。
ーーーブーッ、ブーッ
あと5分くらいで郡司の住むマンションに到着といったところで、スマホが着信を告げた。
郡司からだろうか。
バッグからスマホを取り出して画面を見ると、電話の相手は母だった。
「もしもし?」
『もしもしー?ゆうりー?』
「お母さん…どうしたの?」
『別にどうもしないけどー。元気かなって。最近連絡くれないし、帰っても来ないからさぁ』
「ごめん…忙しくて。時間見つけて帰るね。お母さん、いつ帰るのが一番楽?」
『もぉ…そんなのいつでもいいに決まってるでしょー。お母さんのことは気にしないで、ゆうりが帰って来やすい時にいつでも帰ってきなさい』
「分かった。あ、千冬ちゃんと勉強してる?」
『毎日頑張ってるよ。"必勝"って紙、壁に貼ってる』
母はクスクス笑いながら言った。
弟の千冬は昔から勉強が苦手で、いつもテストでは30点とか40点とか、たまに5点なんてとんでもない数字を叩き出してくることもあった。
それくらい勉強が苦手だった千冬は、将来何になりたいのかと母や学校の先生に聞かれても、何も答えなかった。
中学3年生の時の三者面談で進路を聞かれた時、やっと口にした言葉は『別に何にもなりたくない』だった。
そんな千冬が『薬剤師になりたい』と言い始めたのは高校に入ってからだった。
思春期を抜け、少しずつ母やゆうりにも心を開き始め、自分の思いをぽつぽつと話してくれるようになった。
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