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その日の夜、夜ご飯を食べ終えたゆうりは千冬と散歩に出掛けた。
アイスを買いに行こうと誘って。
『千冬』
『ん?』
『頑張れる?』
澄んだ空には星が輝いていて、スズムシの鳴く声がそこかしこから聞こえてきた。
『姉ちゃんが看護師になりたいって思ったのって、父さんが死んでからでしょ?』
『そう…』
『俺も同じ』
『同じって…千冬はまだ5歳だったし、覚えてないでしょ?』
『あまり記憶にはない。…けど、父さんがいなくなるんだってことは、なんとなく分かってた』
千冬は『死んだ人を治せる薬って、ないのかなって思ったんだよね』と言った。
『今考えたらさぁ超バカでしょ?できっこないよって、思うでしょ。だけど…俺……』
千冬は『本気でその薬見つけてやるって、あの時思ってたんだよ』と目を潤ませた。
『無いなら俺が作ってやるって思ったんだよね』
『そうだったんだ…』
『今考えたらアホだなって思う。だけどそれが俺の原動力なんだ』
あんなに小さかった千冬は、そんなことを考えていたんだ。
幼いなりに、どうしたら父が元に戻れるか、必死に考えたのだろう。
『一緒に過ごしたのは5年くらいだし、なんなら俺の記憶にほとんどねーし。だけど、ずっと胸の奥にあるような気がしててさ…』
『でも千冬、勉強なんかしないでずっと遊んでたじゃん』
『勉強つまんなかったから、逃げてたんじゃん?今思えば、マジで姉ちゃん見習って、つまんなくても王道の勉強しときゃよかったーって思ってる』
千冬は悲しそうに笑った。
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