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『あの時からずっと、薬のことばっかり調べてたんだよね、俺』
『え、そうなの?』
『草とか、漢方とかすっげー調べてたの。でも学校の勉強には全っ然掠りもしないから、いつも成績底辺だったわけ』
『外行くわーって言ってたのそれ?!』
千冬はよく、『外行くわー』と言っては夜に家を出て行っていた。
ヤンキーとつるんでいるのかと思っていたけど、実は図書館や本屋に行っていたのだ。
その事実を知って、ゆうりは謝罪したい気持ちでいっぱいになった。
だって、顔面が…もう…チャラいもん。
偏見は良くないけど。
『あぁ…偏見って良くないって、今思い知ったわ』
『は?…まぁ、学校の授業が俺の将来にあまり必要じゃないなって思ったんだけど…。でも受験って、要らない科目受けて、点数競い合ってなんぼなんだろ?』
ホントそうだ。
受験は今まで習ってきた学力で挑むのだが、興味のないもので競わされる物事ほど苦に思うものはない。
だけどそれが、誰もがフラットに受けられる試験なのだ。
『今の高校入ったの後悔してる…。もっといいとこ入ればよかったって』
『大丈夫だよ。思ったよりも下の学校に入ったんだったら、そこでトップを目指しちゃいな!』
『あはは。…そーだな』
『千冬には頑張る理由がある。わたしと同じ理由が…。だから、頑張ろう、一緒に』
ゆうりが拳を出すと、千冬も泣きそうな目をして『父さんと、母さんのために』と拳を合わせてくれた。
満月が綺麗な夜だった。
スズムシがリンリンと鳴いて、たまに蚊に刺されて、蒸し暑いけど吹く風は涼しくて。
大切な弟、千冬との約束…。
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