白黒の馴れ初め話

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 たまげるという言葉を漢字で『魂消る』と書くのは、人は驚くと魂を落とすと信じられていたことが所以(ゆえん)だ。そんな些細なキッカケでいちいち魂が抜けるようなら、常に不安で仕方なくて日常生活に支障をきたすだろう。  それがこの九十九(つくも)町では頻発(ひんぱつ)する。 「まぶやーまぶやーうーてぃくーよー♪」  身長180センチの女子高生が道ばたで男児を抱き、不思議な呪文とともにポンポンっと優しく背中を叩く。  傍目(はため)には弟をあやしているようにも見える。  しかし通りがかりの黒部(クロベ) (スズメ)には、こう見えた。 「八尺(はっしゃく)様が! ショタを食おうとしてますぞ〜!」  自分には霊感があると信じきってるバードテール(短いツインテール)の、眼鏡チビ女子高生はすぐさま相手に飛びかかっていく。 「こりゃ〜妖怪!」 「なぁーにぃー?」  糸目で背が高くてアシメ前下がりボブ(アシンメトリーなボブカット)の女子高生は、タッパどおりのパワーで黒部の首根っこを掴み上げた。 「うひ〜小生(しょうせい)のようなロリまで守備範囲か八尺様〜?」 「そんな害霊(がいれい)なんかじゃなくてちゃんと人間だよぉー」 「じゃあこのショタに何をしていたんですかな?」 「マブイが抜けてたからマブイグミしてたのぉー」  黒部にはデカい娘ちゃんの言葉の意味がわからない。  もみあってる間に男児は眠りから覚めたように、 「お姉ちゃん……ありがとう……マブイ(たましい)戻ったよ」  と言い残してトコトコと歩いていってしまった。 「アンタ何者なんですぞ?」 「白玉(シラタマ) (アズサ)霊媒師(シャーマン)さぁー」  出会って以降、黒部は学校でも白玉に絡みまくった。 「白玉さん、アンタってクラス隣だったんですな」 「あのさー、なんか梓に用事とかあるのかなー?」 「一人称が名前とはブリっ子ですな」 「うちなーじゃ普通だよぉ女はぁー」 「うちなー?」 「沖縄のこと」  白玉は小学生まで沖縄に住んでいたらしい。  ついでにユタという民間霊媒師の家系であると聞き、霊感キャラを売りにしてきた黒部は羨望と嫉妬を抱く。 「小生も霊能者なんですぞ! 仲間ですな!」 「じゅんに?(※マジで?)」 「霊能バトルしましょうぞ! 霊能バトル!」 「チカラは困ってるヒトを助けるためのものだよ」  白玉は感情の読めない糸目で言いきる。 「ひけらかすのって好きじゃないかな……じゃあ」  背を向けた白玉を黒部は思わず追いかけた。 「まって! 気を悪くしたならゴメン!」  立ち止まって振り向く白玉に黒部はモジモジと、 「ホントはとととトモダチになりたか……ったの」  赤面しながら正直な気持ちを吐露する。 「でーじ、じょーとー(※たいへん、よくできました)」  白玉の笑顔に、黒部はときめいた。
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