Haruko [2]

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「ちょっと、あなた」  声が届いていないのか無視されるので、今度は名前を呼ぶ。 「高円寺春道さん!」 「はい?」 「ちょっと、『本当に結婚するおつもりですか』なんて惑わせるようなこと言って、一体どういうつもりで……」 「僕はあくまで思ったことを言っただけですよ。ところであなたは?」 「わ、私はカーサ・デ・モリヤで働いているウェディングプランナーの中野春子です。大体、あなた、お二人のことをご存知なんですか?」 「いいえ。今日ここに初めて来られたお客様です」  はあ? だったらまるっきり部外者じゃん! と、心の中で叫ぶ。  高円寺はじっとこちらを見てから、スッと興味をなくしたように視線を外し何も言わずに流し台で洗い物をし始める。やっとのことで春子は声を振り絞る。 「……営業妨害ですよ。お二人は式を挙げるってもう動き出していたんですよ」  その言葉に高円寺は手を止めるとカウンターからフロアに出てくる。 「プランナーの中野春子さん」 「は、はい」 「あなたは結婚とは、どういうものだとお考えですか」  上から春子を見下ろすように高円寺は問う。 「そ、それは。愛し合う二人が永遠の愛を誓い合って……」 「お花畑ですね」 「は、はあ?!」 「結婚式で永遠の愛を誓い合っても離婚する夫婦は山ほどいます。あっけないほどに」 「ちょ、ちょっと……」  高円寺は春子の背中越しに視線をやる。 「あなたこそ営業妨害です。コーヒーを注文しないなら、お帰りください」  振り向くと、店内に入ってよいか様子を伺っているお客さんが何名か並んでいる。  春子は仕方なく外へ出た。 「お花畑ですね」の一言が蘇り怒りが湧き上がってくる。 「もう、何なのあの人……」
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