Haruko [1]

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 ジャケットを脱ぎ、汗ばむブラウスの袖を捲し上げてとにかく走る。七月の灼熱の太陽が意地悪く後頭部をじりじりと焼き付ける。一体、どうしたというのだろうか。  打ち合わせをしたのは今日が二回目。新郎の名前は石渡(いしわたり)裕樹(ゆうき)、新婦は永嶋(ながしま)優実。共に二十八歳。二人とも学生時代はモテたのだろうな、と勝手に勘ぐってしまうほどいわゆる美男美女のカップルだ。  裕樹は大手ディベロッパーの営業で、優実は食品メーカーの人事部。裕樹はやや日に焼けた顔にジム通いしてそうな筋肉質な体型に長身で目鼻立ちのはっきりとした面立ち。優実の方は小柄で愛嬌のある面立ち。ややウェーブのかかった肩までの長さのブラウンの髪の毛が全体の印象を和らげ、ノースリーブからは細っこい腕が伸び、その先にゴールドの婚約指輪が光る。ロングスカートをひらりと揺らして席につく姿に、こちらが見惚れてしまうほどだった。  全体の流れやスケジュール、今後決めるべき事項、必要な提出物などについて特にこれといった追加の質問もなく、説明にも納得している様子だった。式の流れの中で、裕樹はファーストバイトの演出に興味を持ち、優実は少し照れくさそうな様子で笑みを浮かべていた。春子は二人とのやり取りを思い出す。  ――これってケーキのやつですよね?   ――新郎と新婦でケーキを食べさせ合うものです。優実さん、ご友人の結婚式などで、見たことはありませんか?  ――え、ええ。  ――優実がやりたいなら、俺らもやるか。
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