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プランの提案がよくなかったのだろうか。ふと視線を前方にやると、電話をくれた優実が、古民家風のカフェの前で一人佇んでいる。隣には「ハルミチ珈琲」と書かれた看板が立っている。
ここ、前は違う名前の喫茶店で、しばらく改装か何かでクローズしていたような。そんなことを考えていると、優実が口を開く。
「あの」
優実は前に結んだ手をギュッと結ぶ。
「結婚、やめるかもしれないので……」
「あ、あのその件なのですが、少しお話を聞かせていただけないでしょうか。えっと、石渡さんはどちらに……」
優実は何も言わずに前を向いたまま右の人差し指で背中越しにカフェの入口を指す。
なんということだろうか。たった一時間前、結婚式の打ち合わせをしていたカップルが、いきなり結婚をやめるかもしれないと言い出すなんて。このカフェの中で、とんでもない修羅場が繰り広げられたのではないだろうか……。
重々しい足取りで、春子は「ハルミチ珈琲」の扉を開く。
店内へ入ると入口付近のカウンターに腰掛けている新郎の石渡裕樹の姿が目に入る。向かいには長身で痩せ型の男が。ふわっとした猫毛にやけに通った鼻筋。切長の目をしたその男の口から、次の瞬間、飛び出た言葉に耳を疑う。
「本当に結婚するおつもりですか」
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