Koenji [1]

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Koenji [1]

 高円寺春道(こうえんじはるみち)の朝は店内の掃除から始まる。    八時から始まるモーニングでは母の時代から続くピザトーストとゆで卵をふるまう。十時を過ぎてくると人はまばらになり、お昼過ぎには近くのレストランなどでランチを終えた人がカフェ休憩に入ってくる。ハルミチ珈琲ではランチを提供していない。五人組のご婦人が、やけに大きな土産袋を抱えて公園側のテーブル席を陣取る。  七月の日はまだまだ長い。四時を過ぎても燦燦と太陽が照りつける中、入店してきたのは二人の男女だった。 「いらっしゃいませ」  男性の方が二、と指でやるので、高円寺は二人をカウンター席へと案内する。ちょうど、先ほどのご婦人が立ち上がり会計を済ませたので、お店にはこの二人と、常連の(さく)さん、近所に住むらしい高齢のご夫婦とテラス席でボーダーコリーを連れた散歩帰りの四十代前半くらいのサングラスをかけた女性だけになった。常連の作さんはモーニングで使う食パンを提供してくれている、中道通(なかみちどおり)のパン屋の店長だ。二時過ぎに売り切れになると毎日文庫本を抱えて、ハルミチ珈琲にやってくる。  カウンターに腰掛けた二人はブレンドを注文した。 「いやあ、でも午後休取るなんて久しぶりだな。優実も休めてよかったな。打ち合わせも無事終了。あー、よかった」 「裕樹も、忙しいのにお休み取れてよかったね」  男性は裕樹、女性は優実という名前らしい。
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