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木下がはっきり言ってくれたおかげで、気持ちが楽になった。木下をこれ以上困らせたら俺は男としてラガーマンとして最低だと思った。
「すまねえ、木下。困らせてもうた。気持ちを伝えたいと思って。って、緊張して伝えることもできんかったけど。告白ってすげえ緊張すんな。これからも普通に接してくれたら嬉しい」
笑いながら言うと、木下はホッとしたように笑い返してくれた。
「気持ち、すごく嬉しいよ。ありがとう。あたしもいつも通り接してくれたら嬉しい。告白……せやね、うん、難しいよね」
好きになった人が木下で良かった。俺が木下の立場だったら、こんな対応できない。
同時に、木下も恋をしているのだなと気づいた。
ふっきれたおかげか、駅では電車を待ちながら他愛ない話ができた。
スクラムを組むときに左門が三回に一回はサボる。サボるときはスクラムを組む前に「押すぞっ! 能見、いくでっ!」って、あいつから気合い入れてくる。いざ組んだら左門の左が完全に押されるから、たまんねえんだ。そんな話をすると、木下はお腹を抱えて笑った。
電車に乗り込むと、もうずいぶん心は落ち着いていた。バックス陣の文句を言うと、木下はまあまあと俺を諭しながらも、分かる分かると同調して笑ってくれた。
「それにしても富阪やわ。あいつはなんであんなに自己中なんやろな。ほんで、井本はキャプテンになったんやから富阪に注意せなあかんと思うわ」
ぷりぷり怒りながら言うと、車窓に反射した木下の表情がほんのわずか曇った。
「うーん、せやねぇ。でも、富阪くんほど熱い人はいないと思うよ」
苦笑いで答えた木下はこめかみを掻いていて、それ以降の会話は弾まなかった。木下の最寄り駅に着いて木下は満面の笑顔で手を振ってくれた。
きっと木下は富阪のことが好きなんだ。
こんな俺でもそれくらいのことは分かった。
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