俺は富阪が嫌いだ

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俺は富阪が嫌いだ

 H形のゴールポストが空に伸びている。ところどころ白い塗装が剥げてしまって、赤茶色の錆が目立つ。梅雨をいっぱいに浴びて芝は伸び放題だ。あたりに青い匂いが立ちこめていた。  烏丸商業ラグビー部は大学のサブグラウンドを借りて練習していた。フォワード陣だけが残って芝生に腰を下ろしている。バックス陣は練習時間が過ぎるとさっさと帰ってしまった。  芝生に寝転がりながら、口を尖らせた。 「そもそもバックスのヤツらは好きになれねえ」  楕円形のボールをくるくると回しながら、吐き捨てるように言った。  そういう競技なんやし、お前がフォワードを選んでるんやからしゃあないやん。  そう言われたら元も子もないのは百も承知だが、それでも好きになれない。  身体を張って俺たちが繋いだボールを、最後にトライするだけのバックス。あいつらにいつもスポットライトは当たる。脳震盪を起こしてもおかしくないタックルで俺たちが奪ったボール、歯を食いしばってスクラムで俺たちが押し込んだボール、それを最後にもらうだけでヒーローになりやがる。  俺は許せねえ。  そんなことを一気にまくしたてた。 「能見(のうみ)、ひとつ言うてええか?」  俺の右隣で寝転がる畠田が、俺をまじまじと見た。  いつも俺の右隣に座るクセがある。スクラムを組むときも右プロップだから、畠田はいつも俺の右にいる。 「それってや……もしかして、モテるモテへんの話ちゃうんか?」  返す言葉に困っていると、左から追い打ちがきた。左プロップの左門(さもん)だ。  左門も俺の左に座るクセがある。というか、俺が畠田と左門の間に座るクセがあるとも言える。  左門も畠田と同じくスクラムでは俺の左。名前も左。俺にとって左といえば左門だ。 「てか、それや、富阪がデートしてんの見てからめっちゃ言い出したやんけ」  図星だ。  さすが俺の左右。畠田と左門。  そう。  とどのつまり。  俺は手柄を横取りするバックス、その中でもモテる富阪という男が嫌いだ。
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