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昨年の秋、新チームになった頃の話だ。
練習が終わって、俺は今日こそと決めていた。
マネージャーの一人、ラグビーをこよなく愛する木下香菜に自分の想いを伝える。
木下は屈強な男が好きだと言っていた。いつも俺たち前線フォワード陣のケアをしてくれるマネージャーだ。いつしか想いを寄せ始めたが、それは先輩たちが引退してからの話だと我慢していた。新チームになったら告白すると決めていた。
「俺、塾やから先に帰るわ」
「あ、俺もや」
練習終わり、畠田と左門はわざとらしく先に帰ってくれた。夕暮れから夕闇に移る空の下、緊張しながら木下に声をかけた。
「い、い、いーしょに帰るか」
すこし警戒した木下だったが、こくりとうなづいてくれた。
俺が緊張しすぎていたからか、二人での帰り道はぎこちない空気が漂っていた。とうに陽は暮れたのに天気の話をする俺はアホだったし、空気感に耐えかねて駅に着く前に告白しだした俺はもっとアホだった。
「き、きき、き、きの、木下、あのさ」
木下は覚悟したのか、歩みを止めて俺に正対してくれた。練習終わりが同じになった野球部やサッカー部の連中が横切っていく。木下は嫌だったはずだ。それでも周りを気にせず俺を見てくれた。
「いつも俺らフォワード陣のケアしてくれてありがとう。俺、ずっと……」
「……うん」
それ以上は声に出せなかった。
この告白はうまくいかないって、すぐに分かった。
相手には身体ごとぶつかっていけるのに、好きな人へたったひとことの言葉を続ける勇気は出なかった。
「……うん。能見くん、ありがとう」
「ああ……」
言いたいことも言えずに木下に会話をリードしてもらっている自分が恥ずかしかった。
「今は……うん、あたしたちの花園予選終わるまでは、そういうの、ないようにしたいんだ」
木下はほんとうに良いマネージャーだ。俺は愚かだ。
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