第1章 仕組まれた再会

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「やっぱり、池脇だったか」 「八神先生……? 本当に?」  今、私の自転車を拾い上げてくれている、黒いTシャツにジーンズといったラフな格好をしている男性は、かつての私の担任教師だった八神千宙先生。  私が高校2年の時の……でもたった半年間だけだったが。   「まさか、こんなところでかつての教え子と会えるなんて、思わなかったな」  そう言いながら、先生は私の前に自転車を置いた。  それから、先生はジーンズのポケットからハンカチを取り出し、私が触れるところについた泥を拭い始めた。 「先生!? そこまでしなくても」 「何言ってるんだ。 汚れるのは嫌だろう」 「そうじゃなくて……」  そこまでしなくていい。  そう言おうとして、私は口を閉じる。  先生はこういう人だったなと、私は一気に高校時代の記憶を呼び起こす。  常に、先生は生徒が困っていると、手を差し伸べてくれる。  私も、差し伸べられた一人だった。  最初は、その手をどう受け取っていいか分からなかった。  私は当時、殴ってくる手に対する受け身は知っていても、優しく伸ばしてくる手の受け止め方を知らなかったから。  先生は、そんな私にいろんなことを教えてくれた。  だから、世界は私が知っているものよりずっと優しいことを知った。  たったの半年だけど、私にとってはきっと一生の内で最も幸せに満ちた半年になることは間違いなかった。  あれが最上。あれ以上はもう起きない。  ただ、堕ちるだけ。  そうでなければならない。  何故ならば。 「先生……今は教師に戻れた?」 「いや、もう教師はやめたんだ」  やはり。  あれだけ教師に向いていた人から教師という仕事を奪ったのは、紛れもなく私。  その罪は、私がこれから先償っていかなくてはいけないのだ。
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