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「ご、ごめんなさい……先生……」
私は、これ以上先生に迷惑かけたくないと思った。
私の闇に引き入れてはならない。
だから、すぐに自転車にまたがろうとした。
でも、そんな私の肩を先生は掴んだ。
「先生……?」
「なあ、池脇」
そう言いながら、先生は持っていたビニール袋を見せた。
私がたった今行ってきたばかりのパン屋の名前が印刷されていた。
「ちょっと、付き合ってくれないか?」
「え?」
「積もる話もあるだろうし、一緒に食べない?」
何故、こんなことを急に言い出すのか。
普通なら裏があると疑うだろう。
それに、私には時間がない。
あと少しで、夫が帰ってきてしまう時間。
それまでに夕飯を用意していなければ、私はまた殴られ、蹴られ、犯される。
けれど、そんな予知できる未来を投げ捨ててでも私は選んだ。
「はい。ぜひ」
先生とのひとときを。
後にこの出会いが先生によって仕組まれたものだと知った時、私は心のそこから神に感謝した。
私がこの人……人生で唯一心から愛した人へ贖罪するチャンスを与えてくれたことに。
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