第2章 ただ見つめ合っただけでも罪なんですか?

5/14
前へ
/30ページ
次へ
「そうだな……」  先生は空いている私の隣の席に座った。  私は何だか気恥ずかしくて、ほんのちょっと椅子を先生と反対の方にずらした。 「池脇は、古典好きなのか?」 「え?」  てっきり「もっと真面目な回答を考えろ」と怒られるのかと少々身構えていた私は、拍子抜けしてしまった。 「な、何でそんなことを……」 「いつも池脇さんの感想だけ、ちゃんと読んでるやつの感想だから」 「は?」  意味がわからない。それが率直な意見だった。 「読まないと感想は書けないですよね」 「他の生徒たちは、覚えた知識からしか書かないよ。この単語の意味が分かってよかったとか、景色が綺麗そうとか」  確かにそれは、普段の私だったら書いていた、当たり障りのない目立たない感想だった。 「でも池脇さんは違う。この作者のことをある程度知らないと、この人格否定のような感想には辿りつかない」  人格否定の部分を妙に強調してきた言い回しに、私は少しイラッとした。  この感想を書いた時のことはよく覚えている。  他のどの授業でも寝てばかりいる生徒や、自分の指の毛を抜いてばかりいる生徒が、古典の授業が始まる直前、こぞって先生にほとんど白紙のノートを持ち、媚びた声で質問しているのを見かけた直後だったのだ。  先生に気に入られたい必死さがバレバレで、見ているだけで気分がムカムカした。  あの人たちなんかと一緒にされたくない。  そんなつまらない嫉妬心と、清少納言の上から目線に対する嫌悪感が合わさった結果の、たった1行の感想だったのだ。  でも先生は、私の心の変化なんか気にも止めずこんな事を言ってきた。 「だから池脇さんは古典が好きなんじゃないかと思って」 「だったらなんですか」  私は他の子なんかと違う。  先生目当てで、ちょっとかじり始めた人たちなんかより、ずっと物語を愛している。 「一緒にしないでください」 「え?」  しまった。  口に出してはいけないことを言ったと気づいたのは、先生の大きな目が丸くなった時。  
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加