第2章 ただ見つめ合っただけでも罪なんですか?

6/14
前へ
/30ページ
次へ
「すみません忘れてください」  どうか先生がこれ以上突っ込んできませんように。  私はそう願いながら、視線を机の上の本に戻した。  その願いが届いたのか、それとも先生にとってどうでも良かったことでしかなかったのかは、分からない。  でも先生は、全くその件には触れることなく「源氏物語を読んでいたのか」と別の話題に変えてきた。  先生の選択は、私との会話を続けるのは確かに正しかった。 「そうですけど」 「そうか」  そう囁く先生の顔が、いつの間にか私の近くにあって、私は逃げ出したくなった。  どんどん大きくなる心臓の音が聞こえてしまわないか。  先生が来たことで湧き出てきた、脇汗の臭いに気づかれないか。  今まで私は、こんな心配をしたことが1度もなかった。  でも、それも結局ただの心配のしすぎで、先生はそんなことには関心を一切示さなかった。  その代わり、先生が放った一言は、私の心に綺麗に刺さった。 「源氏物語が好きな生徒がいるのは、嬉しいな」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加