第2章 ただ見つめ合っただけでも罪なんですか?

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 先生の口から女子高生、という単語が飛び出たことが、まず嫌だった。  しかも聞かれた内容を解釈すると、女子高生に好かれたい、と言っているのと同じ意味にも捉えられる。 「え、不潔」  私は飾り気のない本音を無意識に口にしていた。 「違う! 池脇さんが考えているようなことは何も」  慌てて否定する先生の表情は、何だかとても可愛かった。  先生はいつも、にこにこしているか、ちょっとすましているかのどちらか。  額から汗が滲む程慌てる様子なんて、私はずっと観察していたにも関わらず見たことは1度もなかった。 「私が考えてることって何ですか?」  私の声は相変わらず尖ったままだったが、心はすんっと落ち着いていた。  それどころか、もっと先生を困らせてやりたいと思った。  もっと、私だけしか知らない先生を見たいと思った。  もし、私がそんなことを考えてるって知ったら、先生どんな表情をするんだろう?   「それは……」 「それは?」  先生はしどろもどろになりながら、右上を見た。  この仕草は知っている。  先生が困った時、次に話す言葉を探す時はいつもそうするのだ。  先生が私で困ってるのは、ちょっと気持ちいい。 「古典ってさ、受験で失敗しやすい科目なんだよ」 「え?」 「高校生が習う古典くらいだったら、暗記で事足りることばかりなんだけど、模試の成績が悪いから何とかしてくれって……」 「そんなこと?」 「大事だろ。受験だぞ。君たちの一生に関わることだ。だからどうにか少しでも古典に関心持ってもらって、せめて暗記くらいは頑張ってもらえるようにしたいんだよね」  先生がそこまで一息で言い切るのを待ってから、私は吹き出した。
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