第2章 ただ見つめ合っただけでも罪なんですか?

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「悪女……?」 「女子高生の口から悪女って言葉が出るの、意外ですか?」 「そういう訳じゃないが……」  明らかに図星を突かれた、と言いたげな表情でそんなことを言う先生が、やっぱり可愛かった。  私は、先生より自分が知っている知識があることに気づき、調子に乗ってみたくなった。 「最近、悪役令嬢とか悪女ブームなんですよ。アニメとか漫画とか。知らないんですか?」 「そうなのか。時代は変わったな」 「先生と私、そんなに年齢違わないのに」  つい、親近感を出してみたくてそんな軽口を言ってみた。  家に来る東大卒だと言う家庭教師の先生には、1度もそんなこと言いたいと思ったことはなかったと言うのに。 「女子高生とは全然違うよ。やっぱり世代なのかな」  あ、線を引かれた。  自意識過剰かもしれないが、そんな風に感じた私は、世代という言葉に密かに傷ついた。 「だから、古典の悪女特集とかやれば、少しは食いつく人いるんじゃないですか? 古典は悪女の宝庫だし」 「そういう観点で教えたことは確かになかった……」  先生は少し顔を伏せて「なるほどな……」と考え始めた。  私は、その後すぐに先生が立ち上がらないために「ええと、それで例えばなんですけどね」とわざとらしく言いながら、持っていた源氏物語の本を適当にペラペラ捲った。  もっと話すきっかけが欲しい。  せめてあと2分、1分でもいいから。  その祈りが届いたのか、偶然止まったページにちょうどよい名前を見つけた。   「六条御息所……とか……?」
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