第2章 ただ見つめ合っただけでも罪なんですか?

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「なるほど……悪いことをしているけど憎めない理由か……」  先生は、私の独り言のような呟きで何か閃いたらしい。 「だとするとああいう話もできるか……」  頭の中で誰かと話しているかのように、ぶつぶつと私に聞こえない声で何かを話し始めた。 「何か……分かったんですか?」 「ああ……分かったと言うか……」  そう言うなり、先生はいきなり私の手を両手でぎゅっと掴んできた。 「せ、先生!?」 「ありがとう池脇さん! おかげでいいアイディアが出てきた!」 「は、はあ……」  一体どんなアイディアが浮かんだと言うのか。  具体的な内容は一切出てこない。  だが、先生が目をキラキラさせながら「だったらあれを……」「いや、こっちか……」と、胸ポケットから手のひらサイズのメモ帳を取り出して、殴り書きしている様子を見ている間に、内容なんかどうでもいいと思った。  先生は、私にとって大人の男の人。  なのに今は、子供のような明るい表情で、楽しそうにしている。  私だけの隣で。  いっそこのまま時間が止まればいいのに。  私はそんなことを考えながら、六条御息所の思いを馳せた。  きっと彼女も、同じことを考えたんだろうな……。  だから、他の女と一緒にいる好きな人を思うだけで、殺したくなったのだろう。  もし先生が私以外の生徒と同じ時間を過ごしたと知ったら、私も生き霊くらい飛ばしてしまうかもしれない。  それくらい、先生を独り占めにしたいと私は強く思った。  
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