序章 私は先生のためだったら、悪女にだってなれる

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「ずっと、こうしたかったの、先生」 「俺もだ、流花。愛している」  彼は、私に優しい嘘を囁き続ける。  私を、彼の道具にするために。  でも、私はずっと誰かの道具だった。  だからどうせ道具になるのなら、人生で1番の幸福をくれるこの人の道具になりたいと、女の本能が叫ぶ。 「流花、本当にいいんだな?」 「私もう、覚悟決めてるから」  私の嘘偽りない言葉に、彼は1つ小さく頷いてから、腰を動かすスピードを速めた。  それからはもう、下半身に与えられる熱と快楽にうなされていくだけ。  理性を失った獣のように、互いを求め続ける。   彼が、私の胎内を彼色に染めた時、私はようやく、彼のための悪女に堕ちることができた。 「赤ちゃん、できているといいな……」  私は、染まったばかりの中を想いながら、汗で光るお腹をさする。 「そうだな」  彼は、私の臍周りにキスを何度も落としながら応えてくれた。  その刺激も、先生が教えてくれた禁断のもの。 「なあ、流花」  先生は、私に何度もキスを落としながら、私の目を覗き込む。  私の嘘を、すぐにでも見抜くように。 「本当に、いいのか?俺のために」 「いいよ」  即答しか、選択肢はない。  それ以外のものなんて、いらない。  私は、先生に教わらなければ絶対にしなかった、舌を吸い取るようなキスを先生に返した後で、はっきりと先生に答えた。 「安心して、先生。私は先生のためだったら、悪女にだってなれるのよ。最初から先生、そのつもりで私に近づいたんでしょう?」  先生は、私の問いには答えない。  でも、それでいい。  先生の本当の気持ちなんかより、先生の嘘から与えられるものの方が、ずっと価値がある。 「先生は私がほしいものをくれる。その代わり私は先生の復讐の道具になる。それで、二人とも幸せになれる。でしょう?」  先生は、私の問いかけに何かを言おうとした。  でも、私はもう一度先生の唇を塞いだ。 「もう黙って、先生」 「ああ、わかったよ」  それから、私と先生は夜が明けるまで、またお互いを激しく貪った。  これから始まる復讐劇への覚悟を、確かなものにするために……。
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