第2章 ただ見つめ合っただけでも罪なんですか?

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 もっと続けばいい時間程、どうしてあっという間に過ぎ去ってしまうのだろう。  聞き慣れた、帰宅時刻を知らせるチャイムが無情に鳴り響いた。 「もうこんな時間か」 「ですね。もう……帰らないと……」  先生の「もう」と、私の「もう」はきっと意味が全然違うのだろう。  分かってはいても、勝手に寂しくなる。 「じゃあ、気をつけて帰れよ」 「分かりました」  分かってはいるのに、勝手に怒りたくなる。  私が今どんな気持ちでここにいるのか知ろうともしないで、別れを惜しんでくれない先生が非情だと思った。  なんて自分勝手なんだろう。  そんな自分を知って欲しいような、欲しくないような。  私は心の中の葛藤を知られる事が怖くて、さっさと出て行こうと素早く立ち上がり、でも引き止められるのを期待してゆっくり足を動かした。  そんな私の姿を、先生は不思議に思ってしまったのだろうか。 「池脇さん、足痺れた?」 「え?」 「足、動かしづらそうだったから。さっきまで正座だったし」  正座は嫌でも慣れている。  ちっとも痺れてなどいない。  でも、あと1分でもいいから先生と同じ空気の中にいたい。 「そうなんです。足、痺れちゃって……すみません……」 「いや、そしたら……俺の授業の準備につき合わせたってことにするからさ、治るまでここにいていいよ」 「いいんですか?」 「15分くらい大丈夫だろう」  そう言うと、先生がすっと立ち上がった。 「どこに行くんですか?」 「警備員さんに、池脇さんのこと伝えてくる。だから安心して」  それから先生は私のことなど気にせず、さっと行ってしまった。  私は「ははは」と笑いながら畳の上に転がった。 「嘘、ついちゃった……」  こんな嘘、ついたことなかった。  少なくとも家でそんなことをしたら、私は殴られていただろう。  心臓が痛くて仕方がない。  でも不思議と気分は悪くない。 「先生……行かないでほしかったな……」  誰の気配もしない扉に向かって、私は嘘をついた本当をつぶやいた。
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