第1章 仕組まれた再会

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 夫が、乱暴な音を立てて出ていくのをしっかり確認してから、私はズキズキ痛む頭を抑えながら、ゆるりと起き上がった。 「最悪なのは、こっちなのに……」  ため息をつきながらも、やることはたくさんある。  夫が、たった数時間滞在するこの家を、快適にし続けるという役割をこなさなくてはいけない。  特に1番重要なのは、朝食用のパンを買いに行くこと。  夫が食べたいパンを売っているお店は、わざわざ自転車でいかないといけないパン屋さん。  そこのパン屋の食パンのトーストじゃないと、食べてくれないのだ。  さらに言えば、そこのパンは本当に人気で、朝早く並ばないと売り切れていることも多い。  メディアで先日取り上げられてからは、遠くからも足を運ぶ客が増えてしまった。  そのパンを買って帰らなければ、また私は殴られるだろう。 「行かなきゃ……」  髪の毛を適当にまとめ、楽なワンピースとサンダルを履いた私は、夫から持つことを許された財布とエコバックを持って、急いで自転車置き場まで走った。  本当ならバスを使いたい距離だが、その話をすると「なんて勿体無いんだ」と夫に嫌な顔をされた。  それ以来、往復1時間の距離を、夏も冬も余程のことがない限りは自転車を使うようにしている。
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