第1章 仕組まれた再会

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 夫の名は鈴野武彦。  父、池脇悟も通っていた、私立医学部を卒業しており、今は外科医をしている。  とどのつまり、父のお気に入りだ。  私がこの人と最初に会わされたのは、短大卒業してすぐの4月。  就職活動をすることも許されず、ただひたすら花嫁修行としての料理教室やマナー教室などに通わされていたのは、この見合いのためだったのかと、高級ホテルのレストランに連れてこられた時に悟った。  母が笑顔で、私のためにとあつらえた振袖を、私の代わりに選んでいる光景は、私からするとただただ滑稽でしかなかった。  どうして、自分が着ることのない振袖に、そこまで真剣になれるのだろうかと、私には理解できなかった。 「ほら、これはあなたが好きな色よね?」  1時間以上もかかってようやく母のお眼鏡に叶ったのは、御所車と呼ばれる柄が描かれた、赤紫の振袖だった。 「…………そうだったかな」 「そうよ、小さな頃、よくこの色を選んでたでしょ?」  それは、他に好きな色がなかったから仕方がなくでしょ。  黒と赤の2択からしか選ばせてくれなかった時もあったでしょ。  本当は薄いミントグリーンが好きだなんて、思いも寄らないんでしょ?  反抗期に、一言でもそういう言葉を投げつけることができていたら良かったのだろうか。  でも、結局私は何も言い返すことができないまま、20歳になってしまった。  もう、何もかも遅いのだと、私は諦めた心を笑顔で押し隠した。
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