24.親に逆らえない。

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24.親に逆らえない。

「マリーナ、どうした?今、何を考えている? 」 ユーリ皇子殿下が私の頬に手を添えながら行ってくる。 (私が何を考えてるのか気にしてくるのは侑李先輩と同じね⋯⋯) 本当はユーリ・ハゼも早瀬侑李とは切り離して、まっさらな気持ちで彼と向き合うべきだろう。 「ユーリ皇子殿下とルーク皇子殿下が手を取り合い理想の帝国を築ければと考えておりました。帝国に棲みつく蟻の考えとしてお聞きください。2人を対立させるように持っていくことで、得する人間が存在します。今はその見えない勢力の存在がある可能性を考え、お2人は手を取り合うのが最善と考えます」 「蟻じゃない。お前は俺の女だ。俺もルークと対立したい訳ではない。より良い帝国を築くためには力を合わせる方が良いだろう。何せ、俺は後ろ盾も何もない非力な皇子だからな」 急におちゃらけたように言ってくるユーリ皇子殿下はやはり優しい。 深刻な顔をしたルーク皇子の顔が明るくなった。 そして、私の心も少し軽くなっている。 もし、この世界が夢でないのならば、私はユーリ・ハゼを侑李先輩と関係なく見られるようになりたい。 彼は私の憧れの人と似ているが、違う世界に生きる別人だ。 「僕にも帝国のために何かできるでしょうか」 ユーリ皇子の冷たい態度に傷ついてきただろうに、彼の兄への好意は消えていない。 ルーク皇子殿下は純粋な人なんだろう。 皇子として生まれたことで危険な目にあい、期待を背負わされ、兄から疎まれても人を想う気持ちを捨てていない。 私も昔は無条件に兄と姉が好きだった。 兄への気持ちが冷めたのはいつだっただろう。 倉庫で10年以上埃を被った防具の処分先に困って、私に剣道部に入るよう提案してきた時だったか。 姉への気持ちが冷めたのは、私の就職活動がうまくいかなかった時に馬鹿にされたからだろう。 「私の時はどの会社も来てくれって大変だったわよ。やっぱり、女は学力より愛嬌よね」 彼女は就職活動に苦戦して自信を喪失している私を楽しむように笑っていた。 (バブル期と就職氷河期では全然違うでしょ⋯⋯) 私は親に予想外にできた子だから、お金をかけたくないと言われ兄弟間差別を受けてきた。 そのような両親の振る舞いを見て、兄と姉も私のことを自分達と同列とは扱わなかった。 父親への気持ちが冷めたのは「大学に行きたいなら、奨学金で行け」と言われた時だ。 兄と姉は全額学費を払って貰っていて、私の記憶が確かなら毎月3万円のお小遣いまで貰いながら大学生をしていた。 母への気持ちが冷めたのは「どうせ合格しないのだから、介護に集中しろ。少しは役にたて」と言われた時だ。 私はどうしても教師になるのを諦めたくなくて、他県の教員採用試験も受けようと考えていた。 しかし、その頃父が脳卒中で倒れ要介護状態になった。 母親は自分が介護をしたくなくて、私に父の面倒を見るように強いた。 兄も姉も就職を機に地元を離れてしまったので、地元にいる私に父の介護を押し付けたかったのだ。 「教師なんかになったら、拘束時間も長くなるでしょ。今の融通がきく工場勤務をしながら、お父さんの面倒を見なさい。親孝行したい時にはもう親はいないわよ」 母親は私が教員採用試験を受けようとするのを妨害し続けた。 思うように体が動かなくなり、暴言が増えた夫の相手をしたくなかったのだろう。 それでも私は親に逆らわず不満を自分の中に押し込めて、言うことを聞き続けた。 14歳のルーク皇子は母親に皇帝になるよう期待されれば、それに従おうとするだろう。 40歳の私だって親に逆らえたことがないのに、幼い皇子にとって親の発言は絶対だ。
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